夏の手

 祖母は私の隣で、皴のある手で器用にカッターナイフを使い鉛筆を削っていた。

 

 祖母の家は高知にある。周りを山と田んぼで囲まれたそこは、とにかく緑が目に眩しい。幼い頃は毎年夏休みに祖母の家を訪ねていた。長いこと電車に揺られ疲れ切った私と妹と母を、祖母はいつも「よく来てくれたねえ~。暑いでしょう?今冷たいお茶淹れるから。」と言って出迎えてくれた。そして私たちは、お土産として持ってきた焼き菓子と祖母が淹れてくれたアイスティーでくつろぎながら、会えなかった一年にあった様々な出来事について話すのだった。

 祖母との思い出で、今でも忘れられない出来事がある。

祖母の家には毎年一週間ほどいた。これはその三日目頃のお昼の出来事だったろうか。祖母がリビングで、ノートに先がごつごつと尖った鉛筆で何かを書いていたのだ。その姿があまりに真剣だったので、気になった私はそーっと祖母の側に行き「おばあちゃん、何書いてるの?」と聞いた。すると祖母は「俳句を詠んでいるんだよ」と教えてくれた。

「俳句?ご・しち・ごのやつ?」「そう。五・七・五のやつよ。あゆみちゃんも詠んでみる?」

俳句が何たるかよく分かっていなかったが、何だか面白そうだと思い「私もやる!」と言ってさっそく詠んでみることにした。けれど、何をどうしたらよいのか分からない。筆が進まない。そんな私を見て祖母はふふふ、と楽しそうに笑いながらこう言った。

「最近楽しいと思ったことは何?」「楽しい…うーん、あ!あのね、さっき庭でカエルを見つけた!」「あらそうなの。庭のどこで見つけたの?」「葉っぱ、葉っぱの上でねゆっくりしてたよ。…あ!」その瞬間、頭にパッと一つの句が浮かんだ。

 

「かえるさん 葉っぱの上で 一休み」

 

すごく良いものができた、と思って祖母の顔を見た。祖母も嬉しそうな顔をしていた。

「とっても良い句。なかなかやるじゃない。」

その一言がまたすごく嬉しくて、その日はそれからずっと祖母に季語や字余り時足らずなど、俳句のいろはを教えてもらいながらたくさんの俳句を詠んだ。そんな私の隣で祖母は、私が使って短くなった鉛筆の芯をカッターナイフで削っていた。するすると、器用に。

一緒に俳句を詠んだこともそうなのだが、それ以上になぜだかこの光景が忘れられない。

 

  それから何年も時が流れ、私は今年、久々に祖母の家を訪ねた。(受験などでしばらく訪ねることができなかった。)

相変わらず祖母は真剣な顔で俳句を詠んでいた。しかし、手にしていたのは先がごつごつと尖った鉛筆ではなく、先がつるつると尖った鉛筆だった。

「おばあちゃん、今はもうカッターで鉛筆、削らないんだ。」

「そうねえ、最近目が見えづらくてね。カッターだと危ないから鉛筆削りを買ったのよ。」